【PT・OT向け】進化の過程からひも解く、人が直立二足化となった解剖学的な変化(多裂筋と腸腰筋による対側性骨盤リズムを解説)

理学療法

この記事はPT・OT(学生含む)向けに作成しています。予めご了承ください。

ヒトの老化はどこから始まるのか?

このような疑問を持ったことはないですか?

私は円背の方のリハビリを行うと、

「この方は、若いころどこから悪くなり、現在の姿勢になったのかな?」

といつも思います。

もちろん、生活レベルや環境によって、答えは様々だとは思いますが、最初に機能低下しやすい部分があるのではないか?と思っています。

それを学ぶためにはまず、

人が直立二足化になるために、どのような進化(変化)をしたのか?

ということを学ぶ必要性があります。

なぜ、進化を学ぶ必要があるかというと、私も含めPTやOTは退行変性とは切っても切れない関係にあるからです。

退行変性とは?

簡単にいうと老化現象(加齢に伴う変化)のこと

この退行変性は、新しく獲得した物から失っていく(諸説あると思いますが)と言われています。

すなわち、人が直立二足化できた進化を学ぶことで、どこから機能低下していくのか??

この問いに少しでも近づけるようになります。

先に私の考えを言ってしまうと、多裂筋と腸腰筋による対側性骨盤リズムが重要だと感じています。

この記事を読んで頂くことで、

  • 直立二足化になることを可能にした体幹の変化
  • 多裂筋と腸腰筋による対側性骨盤リズム

が理解できるようになります。

ぜひ、最後までお付き合いください。

体幹に生じた解剖学的な変化

ヒトに進化するために起こった解剖学的な変化とはなんでしょうか?

かなりざっくり説明すると、四つ足動物→サル→ヒトという順序になります。

四つ足動物は前足荷重であり、後足が駆動となっています。これでは上肢の使用が出来ません。

サルは後足荷重となり、これにより上肢の使用が可能となりました。大腿骨や下腿骨が太くなり、踵が地面に接地するようになってきます。

ヒトはご存知の通り、2足歩行です。

サルからヒトに進化した際に2足歩行となったわけですが、その際に体幹の機能が劇的に変化しています。

その変化が直立二足化となるために必要な進化だったとも言えます。

(出典:Wikipedia)

体幹に生じた変化は主に5つあります。上記図を参照して、比べてみてください。

  1. 骨盤の形が横に広くなる
  2. 腰椎が前彎する
  3. 胸椎が伸展する
  4. 胸郭の形が横に広くなる
  5. 肩甲骨が後退する

直立二足化になるためには、この5つの変化が必要でした。この5つの変化はあることをするための変化なのですが、それは、

重心を股関節の直上に持ってくるための変化

です。

この体幹の重心位置を股関節の直上にある姿勢をuplight(アップライト)と言います。

このuplightの姿勢に出来ないと、下肢機能が発揮できず、歩行が困難となってきます。

先ほど、退行変性を新しく獲得したものから失っていくと説明しました。

すなわち、この体幹に生じた5つの変化を評価することが大事だということになります。

実際に、加齢による姿勢変化を調べた文献をみつけたので、見たいかたは見てください。

文献では、

『加齢による脊柱彎曲は頸椎と胸椎で大きく、中でも最も彎曲が著明なのは胸椎である』

と記載されています。

uplightの姿勢により、直立二足化が可能となったわけですが、この姿勢を維持するため重要なのが、腰椎骨盤リズムの対側性腰椎骨盤リズムになります。

腰椎骨盤リズム(lumbopelvic rhythm)

股関節が動く際、骨盤や腰椎も連動して動きます。

この股関節と腰椎の動きの関係を腰椎骨盤リズム(lumbopelvic rhythm)と言われています。

腰椎骨盤リズムには、同側性腰椎骨盤リズム対側性腰椎骨盤リズムの2種類あります。

同側性腰椎骨盤リズム

同側性腰椎骨盤リズムとは、腰椎と骨盤の動きが同じ方向に動くことを言います。

例えば、立位で前屈・後屈を見てみましょう。

  • 前屈では腰椎屈曲と骨盤前傾の組み合わせ。
  • 後屈では腰椎伸展と骨盤後傾の組み合わせ。

すわなち、腰椎と骨盤の動きが同じ方向に起こります。

このパターンしか出来ないと、骨盤や腰椎の動きに対して、重心を股関節の直上に位置させることが困難となります。

重心を股関節直上に位置させるためには、次に説明する対側性腰椎骨盤リズムが必要不可欠です。

対側性腰椎骨盤リズム

対側性腰椎骨盤リズムとは、腰椎と骨盤の動きが反対方向に動くことを言います。

座位で骨盤前後傾するとわかりやすいと思います。

  • 骨盤前傾すると、腰椎伸展
  • 骨盤後傾すると、腰椎屈曲

すなわち、腰椎と骨盤の動きが反対方向に起こります。

重心を股関節直上に位置させるためには、この対側性骨盤リズムが大事であることは先ほども説明しましたが、このリズムの主動作筋が多裂筋と腸腰筋(大腰筋)になります。

対側性骨盤リズムの主動作筋

対側性骨盤リズムを作り出す主動作筋は多裂筋と腸腰筋になります。

まずは、それぞれの機能を簡単にみてみましょう。

多裂筋

(引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス)

起始

仙骨、PSIS、腰椎乳様突起、胸椎横突起、C4~C7の関節突起

停止

起始より上の第2~4椎骨棘突起

作用

脊柱動作で椎骨を安定化させる、腰椎伸展

機能不全

脊柱の分節的な伸展が困難となる

つっちぃ
つっちぃ

多裂筋に関しては、腰椎前彎(伸展)作用はありますが、骨盤の前傾作用はありません。ヒトの腰椎はサルと比較すると、横突起が後方化し、かつ厚くなっています。後方に位置させることで、横突起に付着する筋の伸展作用の効率が高まります。

腸腰筋

(引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス)

大腰筋と腸骨筋を合わせて、腸腰筋と言います(小腰筋も含みますが、今回は省きます)。

図で青色で表示しているのが腸骨筋になります。

大腰筋

起始

Th12~L4までの椎体、全腰椎の肋骨突起

停止

大腿骨の小転子

作用

股関節屈曲、腰椎伸展(腰椎アライメントにより変化)

腸骨筋

起始

腸骨内側の腸骨窩、下前腸骨棘

停止

大腿骨の小転子

作用

股関節屈曲、骨盤前傾

腸腰筋の機能不全

骨盤前傾が困難

多裂筋と腸腰筋の同時収縮

(引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス)

少しわかりにくいですが、多裂筋と腸腰筋(腸骨筋は映っていませんが)を後外側からみた図になります(青色で示しているのが、大腰筋になります)

ここで、もう一度、多裂筋と腸腰筋の作用を整理してましょう。

  • 多裂筋・・・腰椎伸展作用
  • 腸腰筋・・・骨盤前傾作用

腰椎伸展と骨盤前傾作用の組み合わせが多裂筋と腸腰筋の同時収縮によって生じることが理解できると思います。

腸腰筋(大腰筋)の作用に腰椎伸展または腰椎前彎とありますが、実はこの作用は腰椎のアライメントによって変化します。

大腰筋の起始部が肋骨突起であるため、腰椎が屈曲位の際には腰椎の屈曲を増強させてしまいます。

ですので、対側性骨盤リズムを作りだすには、

多裂筋が収縮して腰椎を安定・伸展させ、そのアライメントの状態で腸腰筋が作用することで、腰椎の固定性が強化され、骨盤前傾が可能となります。

つっちぃ
つっちぃ

筋肉の作用を教えてくれる教科書は多くありますが、そのほとんど作用は解剖学的な肢位での作用を記載していることが多いです。アライメントや姿勢によって、筋の作用が逆転することは多くありますので、注意してください。

多裂筋と腸腰筋のトレーニング

多裂筋と腸腰筋のトレーニングは調べればたくさん出てきます。

多裂筋のトレーニングで有名なのが、四つ這いで手足を上げる運動です。

腸腰筋のトレーニングで有名なのが、臥位や座位で股関節屈曲の運動があります。

その他にも負荷量を増加させれば、いくらでも方法があります。

ですが、ここでは対側性骨盤運動リズムを改善させるための方法を記載します。

多裂筋の収縮により、対側性骨盤リズムを改善させる方法

【手順】

①椅子に浅く腰掛ける。

➁PSISの内側で多裂筋を触診し、母指で圧迫する。

(引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス)

③PSISからL5腰椎に向かって引っ張るように母指で操作し、L5の伸展を促す。

④L5の伸展を促せたら母指をPSIS内側に戻し、L4腰椎に向かって多裂筋を引っ張り上げる。

➄この操作をL3~L1まで同様に行う。

(引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス)

注意点

多裂筋の収縮を促す際にはいくつか注意点があります。

腰椎の可動域制限

もともと、腰椎伸展可動域制限がある場合は、腰椎伸展を促すことが出来ないので、先に腰椎伸展の可動域を改善させる必要性があります。

つっちぃ
つっちぃ

高齢で円背等があり可動域制限が著しく改善が困難な場合、私は多裂筋を徒手で刺激する程度にしています。

股関節の可動域制限

股関節屈曲可動域制限がある場合は代償で骨盤後傾となるため、腰椎伸展を促すことが困難となります。

股関節屈曲可動域制限がないか、チェックしておきましょう。

つっちぃ
つっちぃ

股関節屈曲可動域訓練の際、骨盤後傾代償で屈曲しているケースもあります。骨頭の動き確認しながら、どの程度で代償が出現するかも確認しておきましょう。

胸椎・頸椎のアライメント異常

頸椎伸展、胸椎屈曲のアライメントになっていると、腰椎を伸展することができません。

胸椎や頸椎の可動域もチェックし、関節の制限によるものか、筋力低下によるものか調べておきましょう。

まとめ

多裂筋と腸腰筋による対側性骨盤リズムの紹介をさせて頂きました。

簡単にまとめると、

  • ヒトが直立二足化となるためには、重心を股関節直上に位置させる必要があった
  • 重心を股関節直上に位置させるためには、対側性骨盤リズムが必要となった
  • そのためには多裂筋と腸腰筋を同時収縮させる必要性があった
  • 多裂筋の収縮効を率良くするため、サルよりも横突起が厚くなり、かつ後方化され多裂筋自体も発達した
  • すなわち、多裂筋と腸腰筋の機能が低下することで、機能的な直立二足化が困難になる

実際には、多裂筋と腸腰筋だけでなく、

  • 腹横筋
  • 骨盤底筋
  • 横隔膜
  • 胸腰筋膜
  • 胸棘筋
  • 僧帽筋下部
  • 頸長筋

等の筋肉が関わってきます。

全てを説明すると、かなり長くなりますので、今回は絞って説明させてもらいました。

参考になると嬉しいです。

最後までお読み頂きありがとうございます(^^♪

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